米国特許-特許適格性(2)特許適格性判断の道程

前回の記事で、現行(最新)の判断基準の研究・理解は全ての技術分野で有益と述べました。まずは特許適格性がどのように判断されるのかを見てみたいと思います。下のフローチャートは特許適格性の判断手順を示しています(MPEP 2106から転載)。米国特許を扱っている実務者であれば、誰もが一度はご覧になっているでしょう。

特許適格性の判断手順は、ステップ1、ステップ2Aおよびステップ2Bを含みます。フローチャートには反映されていませんが、ステップ2Aは、2019年1月公表の改訂ガイドライン(2019 PEG)により、さらにProng 1およびProng 2に細分化されています。

ステップ1:クレームが法定カテゴリーに属するか?

法定カテゴリー(Statutory categories)とは、米国特許法101条により特許適格であると規定されている4つのカテゴリー(プロセス、機械、製造物および物質の組成物)です。

クレームが法定カテゴリーに属していなければ、残念ながら「特許不適格」と判断されて審査終了です(ステップ1:NO)。一方、クレームが法定カテゴリーのいずれかに属していれば、ステップ2Aに進みます。

ステップ1で特許不適格と判断される例(すなわち、クレームが法定カテゴリーに属さない)は、データ自体、プログラム自体、電磁波信号自体、人そのもの、などです。MPEP 2106.03 参照。

ステップ2A:クレームが司法例外に向いているか(directed to)?

-Prong 1:クレームが司法例外を記述(recite)しているか?

ステップ2Aは、Prong 1と Prong 2 に細分化されています。Prong 1 で、クレームが司法例外を記述していないと判断されると、無事に「特許適格」と判断されて審査終了です(ステップ2A:NO)。一方、クレームが司法例外を記述していると判断されると、Prong 2に進みます。

司法例外(Judicial exceptions)とは、クレームが法定カテゴリーのいずれかに属していても、司法により特許不適格であると認定されている3つの例外(自然法則、自然現象および抽象的概念)です。自然法則、自然現象および抽象的概念は、科学技術開発の基本的な道具であり、これらが誰かに独占されると技術革新を推進するよりもむしろ技術革新を妨げることになるという理由で、特許不適格とされています。

抽象的概念(Abstract idea)は、思考プロセス(Mental Process)、数学概念(Mathematical Concepts)、人の行動を組織化するある種の方法(Certain Methods of Organizing Human Activity)の3つに分類されています。MPEP 2106 04(a) 参照。思考プロセスは、例えば、観察、評価、判断、見解といった人の脳内で実施される行為を含みます。数学概念は、数学的関係、数学的公式または方程式、数学的演算を含みます。人の行動を組織化するある種の方法は、基礎経済原理または実践(リスクヘッジ、保険、リスク回避を含む)、ビジネスまたは法的な相互行為(契約での合意、法的義務、広告・マーケティング・販売行為)、個人の行動の管理、人間間の相互行為(社会活動、教育、規則・命令の順守)を含みます。

ステップ2のProng 1で特許適格と判断される例(すなわち、クレームが司法例外を記述していない)を示します。MPEP 2106.04 (a)(1)参照。

(1)ベルト、ローラー、プリントヘッド、および、少なくとも1つのインクカートリッジを備えるプリンタ。

(2)洗濯槽、洗濯槽を駆動可能に接続された駆動モータ、駆動モータを制御するためのコントローラ、および、洗濯槽と駆動モータとコントローラを含むためのハウジング、を備える洗濯機。

(3)血中グルコースを周期的に測定するセンサと、センサからの測定値を保存するメモリとを備えるイヤリング。

(4)BRCA1遺伝子配列を解析する方法であって、プライマーを用いて、対象の人からの組織サンプルのBRCA1遺伝子の全部または一部を重合連鎖反応法により増殖して核酸を生成し、核酸を解析することを含む方法。

(5)システムプロセッサと揮発性メモリと不揮発性メモリを備えたローカルコンピュータシステムにBIOSをロードする方法であって、ローカルコンピュータシステムから離れたメモリ位置からローカルコンピュータシステムの揮発性メモリへの、ローカルコンピュータの有効利用のために構成されたBIOSの転送および保存をリクエストすることによるローカルコンピュータシステムの電源オンに応答し、前記BIOSを転送および保存し、ローカルコンピュータシステムの制御を前記BIOSに転送する、方法。

(6)グラフィカルユーザインターフェイス上のアイコンを再配置する方法であって、各アイコンの使用量に基づいて各アイコンをオーガナイズするユーザ選択を受け、所定期間にわたりアイコンに関連付けられたアプリケーションに割り当てられたメモリの使用量を追跡するプロセッサを用いることにより各アイコンの使用量を決定し、決定された使用量に基づいてグラフィカルユーザインターフェイス内のコンピュータシステムのスタートアイコンの最も近くの位置に最も使用されたアイコンを自動的に動かす、方法。

(7)顔検知のためのニューラルネットワークをトレーニングする方法であって、デジタル顔画像のセットを収集し、前記デジタル画像に1または複数の変換を適用し、変換済のデジタル顔画像のセットを含む第1トレーニングセットを生成し、前記第1トレーニングセットを利用して第1段階でニューラルネットワークをトレーニングし、前記第1段階のトレーニングで顔画像として誤って検出されたデジタル非顔画像を含む第2トレーニングセットを生成し、前記第2トレーニングセットを利用して第2段階でニューラルネットワークをトレーニングする、方法。

-Prong 2:クレームが、司法例外に加えて、その司法例外を現実のアプリケーションに統合するための追加要素(additional elements)を記述しているか?

クレーム中の追加要素が、司法例外を現実のアプリケーションに統合するようなものであれば、無事に「特許適格」と判断されて審査終了です(ステップ2A:NO)。一方、クレームがそのような追加要素を記述していなければ、ステップ2Bに進みます。

追加要素(Additional elements)とは、クレーム中の、司法例外以外の要素です。例えば、クレームが「コンピュータにより、所定期間でのアイコンの使用量を特定する」と記述しているとします。このうちの「所定期間でのアイコンの使用量を特定する」は人の脳内でも実施可能なので司法例外(特に、抽象的概念)と評価されます。一方、「コンピュータにより」は、司法例外以外の要素、すなわち追加要素となります。

司法例外を現実のアプリケーションに統合する追加要素(additional elements that integrate the judicial exception into a practical application)は、2019 PEG で新たに導入された基準ですが、明確には定義されていません。その代わり、USPTO は、いくつかの仮想事例を挙げて、それらが司法例外を現実のアプリケーションに統合しているかどうかを示しています。別の記事で、仮想事例を紹介します。

ステップ2B:クレームが、発明概念を提供するか?

クレームが発明概念を提供していれば、無事に「特許適格」と判断されて審査終了です(ステップ2B:YES)。一方、クレームが発明概念を提供していなければ、残念ながら「特許不適格」と判断されて審査終了です(ステップ2B:NO)

発明概念(Inventive concept)とは、司法例外そのものよりも著しく超える追加要素です。司法例外そのものよりも著しく超えるかどうかの一つの判断基準は、クレーム中の追加要素が周知、慣用および従来のもの(Well-understood, routine and conventional)に過ぎないかどうかです。2018年のBerkheimer Memorandum により、周知、慣用および従来の判断基準と、周知、慣用および従来と主張するために必要な証拠が明確化されました。具体的には、単にある先行文献に記載されているだけでは、周知、慣用および従来ではないことが明確になりました。つまり、周知、慣用および従来の判断基準は、新規性の判断基準とは異なります。たったひとつの先行文献を見つけだだけでは、周知、慣用および従来のものとは言えないということでしょう。また、周知、慣用および従来と主張するには、審査官は、(1)出願人自らによる自白、(2)裁判例、(3)出版物、(4)審査官による公式通知(Official notice)のいずれかによる証拠を提示する必要があります。

前回の記事で、ある技術分野ではBerkheimer Memorandumを契機に101条拒絶が激減していることを示しました。周知、慣用および従来の判断基準の明確化および拒絶の際の証拠提示の義務化が、審査官の主観的な判断を排除して、より客観的な審査に役立っているのかもしれません。

有効な反論

上述の通り、USPTOは、特許適格性を有するクレームの仮想事例をいくつも挙げています。個人的には、101条拒絶を受けた場合、クレームを仮想事例のいずれかに類似するように補正して、「クレームは仮想事例に類似するから特許適格性を有する」と主張するのが非常に有効だと思います。次回の記事では、USPTOによる仮想事例を紹介します。