米国特許-特許適格性(1) 101条拒絶の減少

101条拒絶の件数動向

2014年のアリス判決直後、特許適格性の判断基準が漠然としていたため、どのようなクレーム表現が拒絶を受けるのか、どのように補正または反論すれば拒絶が解消するのか、いまひとつ把握できない期間が続きました。この時期、ある米国特許弁護士は、米国特許商標庁(USPTO)の審査官でさえ完全に把握していないだろうと述べていました。

USPTOは、2014年に特許適格性の暫定的な審査ガイドラインを公表し、その後、ほぼ毎年のように審査ガイドラインを改訂してきました。これらの改訂により、特許適格性の判断基準が次第に明確化され、審査結果の予測性が次第に向上してきました。特許適格性の判断基準の明確化が理由かどうかは不明ですが、特許適格性による拒絶(101条拒絶)を見かける頻度は減少してきているように感じます。

この感覚が本当なのか、101条拒絶の件数の推移を調べてみました。下のグラフは、USPTOにより公表されている統計データを基に独自に作成したものです。統計は、USPTOの審査部(Technology Center)単位で公表されています。グラフ内の曲線も審査部単位で引きました。

ちなみに、審査部の技術分野は次の通りです。

TC1600: バイオテックおよび有機化学。TC1700: 化学および材料工学。TC2100: コンピュータ・アーキテクチャおよびソフトウェア。TC2400: ネットワーク、マルチプレクシング、ケーブルおよびセキュリティ。TC2800: 半導体/メモリ、回路/測定およびテスティング、光学/写真複写、プリンティング/測定およびテスティング。TC3600: 輸送、建築、電子商取引、農業、国家安全保障およびライセンスおよびレビュー。TC3700: 機械工学、製造、ゲーミングおよび医療デバイス/プロセス。

電気電子・情報通信分野で激減

統計によると、特に電気電子・情報通信を扱う審査部(TC2100, TC2400, TC2600, TC2800)では、2018年4月のBerkheimer Memorandumおよび2019年1月の特許適格性ガイドライン(2019 PEG)を契機に、101条拒絶の件数が激減しています。 アリス判決は、特許適格性の判断手順をステップ1、ステップ2A、ステップ2Bに分離しました。各ステップの詳細については、別の記事で解説します。Berkheimer Memoは、ステップ2Bの判断基準を明確化しました。2019 PEGは、ステップ2Aの判断基準を明確化しました。電気電子・情報通信分野は、ステップ2A、2Bの判断基準の明確化の影響を強く受けた(出願人にとって有利な方向に)と言えます。

バイオテック・化学・ビジネスモデル分野では増減見られず

一方、バイオ・化学分野(TC1600, TC1700)は、Berkheimer Memoおよび2019 PEGによる特許適格性の判断基準の明確化の影響をあまり受けていないようです。バイオ・化学分野での101条拒絶の件数は、2017年以降、ほぼ一定で推移しています。

同様に、電子商取引などのビジネスモデル分野(TC3600)も、特許適格性の判断基準の明確化の影響をあまり受けていないようです。特に、この分野での101条拒絶の件数は、高レベルに維持されています。

審査部(TC3600)では、101条拒絶の件数は高レベルに維持されています。審査部TC3600は、輸送、建築、電子商取引、農業、国家安全保障およびライセンスおよびレビューを扱います。特に、TC3600は、会計、金融、保険、商取引などに関するビジネスモデル発明の審査を担当しているようです。多くのビジネスモデル発明は、人の行為または純粋なソフトウェアのみで完結しますので、抽象的概念そのものと認定される傾向にあるのではないかと推察します。

現行(最新)の判断基準の研究・理解は全ての技術分野で有益

上述の通り、特に電気電子・情報通信分野では、Berkheimer Memo および2019 PEGを契機に101条拒絶の件数が激減しています。従って、特許適格性を満たすためにどのようなクレームにするかを知るうえで、Berkheimer Memo および2019 PEGを研究・理解することは有益でしょう。また、バイオテック・化学・ビジネスモデル分野でも、現行の判断基準を知ることは、拒絶を解消するための補正および反論を検討するうえで有益だと思います。

次回、特許適格性の判断基準を見てみようと思います。

審査部の調べ方

ちなみに、自己の出願がどの審査部で審査されたかは、オフィスアクションのカバーレターに記載されたArt Unitの番号から分かります。Art Unit の4桁の番号の上2桁がどの審査部の配下であるかを示します。例えば、以下の例では、Art Unit 3733です。Art Unit 3733はTC3700の配下です。